梅雨の時期になると、陶芸の仕事は少しだけ足取りが遅くなります。
雨が続き、湿度が高くなると、粘土の乾きが悪くなる。
ろくろで形をつくってから、削りに入るまでの時間も、いつもより長くかかります。
陶芸の仕事は、自分の手だけで進んでいるように見えて、実際にはそうではありません。
天気、湿度、気温。
そうした自然の条件に、常に左右されています。
だから、徹夜をすれば進む、という単純なものでもありません。
手を出せばいい時間と、手を出してはいけない時間がある。
何もできないように見える時間を、ただ待つこともあります。
けれど、その「待つ」という時間も、私にとっては仕事の一部です。
最近進めている、表面に磁器の質感を纏わせる作品があります。
ろくろでしっかりと形づくった磁器のボディに、クリーム状にした磁器粘土を表面へ重ねていく。
形をつくるだけなら、そこまで時間はかからないかもしれません。
しかし、そのあとが長い。
ぐい呑ほどの小さなサイズであっても、乾燥にはおよそ数か月ほどかかります。
急いで乾かせばよい、というものではありません。
無理に乾燥を進めると、表面が裂けたり、纏わせた部分が剥離したり、
形そのものが崩れてしまうことがあります。
この作品の場合、乾き方を間違えると、纏わせた磁器粘土とボディの動きが合わず、
裂けるように破綻してしまう。
そうなると、もう作品としては成立しません。
だから、乾燥は急がせない。
待つしかない時間があります。
梅雨は、乾きが悪い季節です。
その意味では、仕事の進行は遅くなります。
ただ、この作品に関していえば、急激に乾きにくい梅雨の空気は、
ある意味ではやさしい時期でもあります。
ゆっくり乾くことで、粘土に無理がかかりにくい。
もちろん、安心しきることはできません。
毎日、状態を見ながら、少しずつ判断していきます。
陶芸は、予定通りに進める仕事でありながら、予定通りには進まない仕事でもあります。
打ち合わせなど、制作以外の仕事であれば、当然そこに合わせて段取りを組みます。
ただ、粘土の状態によっては、その前日に無理な作業を入れられないことがあります。
また、一気に仕上げなければならない工程に入っている時は、途中で手を止めることが難しい。
タイミングが悪ければ、その一日の作業がほとんど進まないこともあります。
そのため、私生活の予定を気軽に入れることは、正直あまり得意ではありません。
遊びに行くことが嫌いなわけではなく、誰かとの約束を軽く考えているわけでもない。
ただ、粘土は待ってくれない時もあれば、こちらが待たなければならない時もあるのです。
陶芸家の暮らしは、自然と少し近い場所にあります。
雨の日には雨の日の進み方があり、乾いた日には乾いた日の進み方がある。
こちらの都合だけで動かそうとすると、かえってうまくいかない。
だから私は、天気を見て、湿度を見て、粘土の表情を見ながら仕事をしています。
何もしていないように見える時間の中で、作品は少しずつ変化しています。
乾いていく。
締まっていく。
形が落ち着いていく。
その時間を急がせないこと。
それも、陶芸の大事な仕事なのだと思います。
昨日ろくろで引いた器も、梅雨の空気の中で、少しずつ水分を手放しています。
私もその速度に合わせながら、次の手を考えている。

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